「ダークネット」の定義について

「ダークネット(dark net)」というのは、本書のメインテーマなんですが、日本語で検索すると、「ホストコンピュータの割り当てられていないIPアドレス空間」「未使用のIPアドレス空間」みたいな定義にヒットします()。これは、本書で言ってる「ダークネット」となんか違うので、本書の「ダークネット」の定義って間違ってるんじゃないの? 本書の著者って無知なんじゃないの? トンデモじゃないの? と疑う読者もいるかもしれません。

これはもちろん誤解で、実際には英語の "dark net" という熟語の用法自体が時代とともに変化していて、本書のような意味を持つようになってきてるんですね。でも、その変化が日本語の「ダークネット」の方にはまだ反映されてないので、そういうずれが生じているようです。

そのへんの事情は、たとえば、以下のような英語の記事を読むとわかります。

現状では、"dark net" は以下のような複数の意味で使われているようです。

  • インターネット上にあるが、通常のブラウザではアクセスできないサイト。Tor秘匿サービスやP2Pのファイル共有サービスなどが代表的(ダークウェブ)。

  • 検索エンジンでインデックス付けされていないページ。上記に加えて、パスワード保護された会員制のサイトなど(深層ウェブ、ディープウェブ)

これらはどれも、「普通の」ネットユーザーにはあまりなじみのないサイトという共通点があります。著者自身も、この用語を厳密に定義することは避け、そのようなサイトを大雑把にまとめて指す言葉として使っています。

 

闇ネットとは、ある人にとっては、ユーザーを追跡したり特定したりできない、Tor秘匿サービスの暗号化された世界のことだ。またある人にとっては、従来のサーチエンジンでインデックス化されていないサイトのことだ。パスワードで保護された領域の知られざるページ。リンクされていないウェブサイト。知っている人にしかアクセスできない隠れコンテンツ。また闇ネットは、衝撃的な、穏やかならぬ、物議をかもすようなネット上のさまざまな秘境、あらゆる種類の犯罪者や略奪者のいる仮想の領域を漠然と指す言葉にもなった。
闇ネットは、ある意味では、このすべてであるが、私にとっては、特定の場所というよりひとつの概念だ。私たちが暮らすインターネットとは別だが、つながっている地下世界であり、完全な自由と匿名の世界であり、検閲や規制を受けない、社会規範の外にある、ユーザーがなんでも好きなことを言ったりしたりできる世界だ。そこは、衝撃的で不穏な世界だが、同時に、革新的で創造的な、あなたが思うよりずっと近くにある世界だ。

‐書籍版11~12ページ

 

これをいい加減な態度だと思う人もいるかもしれませんが、もともと英語圏では、わりといい加減に使われている言葉なのであります。