オンラインの議論が長引けば長引くほど、ナチスやヒトラーが引き合いに出される確率は1に近づく

英語:As an online discussion grows longer, the probability of a comparison involving the Nazis or Hitler approaches 1.

これは、アメリカの弁護士兼作家のマイク・ゴドウィンが提唱した「ゴドウィンの法則」と呼ばれるものだが、この訳を読んだ編集者の方に「『確率は1に近づく』という言い回しがなんだか堅苦しいので、もっとわかりやすい言い回しに変えられないか」と言われた。この言い回しには理由があるのだ、ということを説明して、最終的には納得してもらったのだが、編集者の方が疑問を持つぐらいだから、読者の方にも同じ疑問を持つ方がいるかもしれない。そこで、この場を借りて同じ説明をしておきたい。

まず大前提として、この「法則」自体が真面目な法則ではなく、ネタ法則・パロディ法則である、ということをご理解いただく必要がある。「マーフィーの法則」のように経験則としてすら成り立ってないような「法則」を、さも確固たる法則であるように主張するというユーモアの手法があるが、この「法則」もそれなのである。

なぜそう言えるかって? そもそも、この「法則」って全然意味のあること言ってないでしょ。「1に近づく」とか書いてあるけど、どれぐらい会話が長引けば「1に近づく」かを具体的に書いてない。だから極端に言えば、1ヶ月でも1年でも千年でも十万年でもいいわけ。人類は十万年ぐらい前から言葉を喋っていたらしいから、十万年会話を続ければ、そりゃたいていの単語は出てきますわな。しかも、この「法則」では「1に近づく」と言ってるだけで、「1になる」とは言ってない。「近づく」ってことは、1パーセントが2パーセントになったって近づいたとは言えるわけ。

だから、よくよく考えると、この「法則」は実際にはどんな言葉についてもほぼ成り立つ法則でしかなく、あまり意味のあることを言っていない。それをわざわざ「ナチスやヒトラー」と限定すること自体が、一種のレトリックなのだ。つまり、ゴドウィンさんが本当に言いたいのは、「ネットの議論ってすぐナチスやヒトラーの話になるよねー」程度の皮肉なんだけど、それをさも数学の確率論の法則みたいに表現すること自体が、これはネタだよ、ということを示すサインなわけ。

だからこそ、この「法則」は数学の定理みたいに回りくどく訳す必要があったのである。ただそれは、この「法則」がネタであることを読者の多くが理解してくれてこそ成立する話であって、この解説を読んで初めてわかるようでは、実は困るのである。星水の懸念が杞憂であることを期待したい。

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