内容紹介

 本書のプレスリリースにも内容の要約があるのですが、字数が限られているせいか、訳者の星水が読んでもピンと来ないような紹介の仕方なので、もう少し読む読まないの判断材料になる程度の詳しさで、各章の内容を要約してみました。

序章:自由か死か

テーマ:ダークネットとは何か

ダークネットの典型的な事例としての「暗殺市場」を紹介し、そのアイデアの起源をサイファーパンクのジム・ベルにまで遡ります。また、「ダークネット」という用語の本書における定義も定めています。

キーワード: 暗殺市場、Tor、ダークネット、サイファーパンク、ジム・ベル

第1章:荒らしの素顔を暴く

テーマ:ネット荒らしの実態・歴史・思想的背景。

ネット荒らしの典型例として、4chan におけるある実況主身バレの事例を紹介し、荒らしの歴史を Arpanet にまで遡って解説しています。さらに、荒らしの思想的な背景を追求し、その背後にリバタリアン的な思想があることを明らかにします。

キーワード: 実況身バレ荒らし釣り炎上、Arpanet、BBS、Usenet、全米ホモ黒ん坊協会(GNAA)、ゴッツィー、4chan、アノニマス、リバタリアン

第2章:一匹狼

テーマ:ネット過激派の歴史と実態。

ネット上の政治的過激派の実態を、極右のイングランド防衛同盟(EDL)と敵対するアンチファを中心に描きます。ネット過激派の多くがごく普通の人々であり、それがネットのエコー・チェンバー効果によって過激化していく様子を生き生きと描いています。また、一匹狼テロリストの典型例として、単独犯としてもっとも多数の人間を殺したテロリストとして有名なアンネシュ・ブレイビクのネット上での活動も紹介しています。

キーワード: イングランド防衛同盟(EDL)、トミー・ロビンソン、ネオナチ、アンチファ、一匹狼テロリスト、アンネシュ・ブレイビク、身バレ、晒し、偽垢いいね!、エコー・チェンバー

第3章:「ゴールト峡谷」へ

テーマ:サイファーパンク運動の歴史と思想的背景。

ビットコインや暗号法の開発者の多くが関わっている、サイファーパンクと呼ばれる運動があります。この運動の歴史をたどり、背景に過激なリバタリアン思想があることを明らかにします。さらに、スノーデン事件以降、一般人のプライバシー意識が高まっており、それがサイファーパンクの思想と呼応している様子も描き出します。

キーワード: ビットコイン、ダークウォレット、公開鍵暗号、PGP、サイファーパンク、リバタリアン、ゴールト峡谷、アイン・ランド、ティモシー・メイ、エリック・ヒューズ、ジョン・ギルモア、フィル・ジマーマン、ジュリアン・アサンジ、サトシ・ナカモト、エドワード・スノーデン、アミール・ターキ、エンリック・ドゥラン、暗号党、カタロニア総合協同組合(CIC)

第4章:3クリック

テーマ:ネット上の児童ポルノの歴史と実態。

ネット上の児童ポルノの歴史をたどり、その拡散の実態を明らかにします。特に、合法の成人ポルノと違法な児童ポルノの間に、法律上のグレーゾーンである「違法ティーン」のポルノがあり、これが入り口になって、そういう嗜好のなかった一般人が児童ポルノにはまっていく様子を生々しく描いています。さらに、ネット上で児童を性的行為に誘惑する「児童誘惑者」の危険な実態も描いています。

キーワード: Tor、児童ポルノ、児童誘惑違法ティーン野次馬、アメリカ少年愛協会(NAMBLA)

第5章:オン・ザ・ロード

テーマ:ネット上のドラッグ市場の歴史と実態。

ネット上のドラッグ市場「シルクロード」の実態と、当局の弾圧との闘いの歴史を描いています。さらに、著者自身が「シルクロード」を利用してみることにより、このような闇ネット市場の繁栄を支えているさまざまな仕組みに迫り、彼らが最終的に目指しているのが、「信頼のいらない市場」であることを明らかにします。

キーワード: Tor、シルクロード、恐ろしい海賊ロバーツ、ロス・ウルブリヒト、ビットコイン、エスクロー、マルチシグ、タンブリング、アルバート・ハーシュマン、発言、離脱、麻薬との戦争

第6章:ライト!ウェブカメラ!アクション!

テーマ:ネット上の素人ポルノの歴史と実態。

ある素人の実況モデルの実況現場を取材して、その様子を生き生きと描いています。さらに、「点数つけて」現象、Utherverseという仮想空間における売春、リベンジポルノなども取材し、ネット上のポルノの供給源が、プロのポルノスターから素人に移りつつある実態を明らかにします。

キーワード: 実況モデル、自撮りセクスティング点数つけて、チップ爆弾、Utherverse、リベンジポルノ

第7章:ウェルテル効果

テーマ:ネット上の自傷行為ピア・サポート・サイトの歴史と実態。

拒食症・自殺・リストカットなどの自傷行為を奨励する危険なピア・サポート・サイトの実態を、豊富な実例によって描き出し、このようなサイトが、利用者を自傷行為に駆り立てる一方で、他に居場所のない人たちに居場所や癒しを与えていることを明らかにします。

キーワード: プロアナ、a.s.h.、ダイエット応援写真、ウェルテル効果、行動の伝染、ウィリアム・メルヒェルト・ディンケル

終章:ゾルタン対ゼルザン

テーマ:技術楽観論者と技術悲観論者の対立から読み解くネットの未来。

現代の技術楽観論者の極であるトランスヒューマニストのゾルタン・イシュトヴァンと、技術悲観論者の極であるアナルコプリミティビストのジョン・ゼルザンの思想を対比して描くことにより、ネット社会の未来を読み解こうと試みます。そして、両者の対立の本質が、テクノロジーに対する認識ではなく、人間の自由に対する認識であると喝破します。

キーワード: トランスヒューマニスト、アナルコプリミティビスト、ゾルタン・イシュトヴァン、ジョン・ゼルザン、アンダース・サンドバーグ、フランシス・フクヤマ、ユナボマー、心のアップロード、特異点(シンギュラリティ)、海上開拓地(シーステッド)

解説:やわらかな日本のインターネット

ネットに詳しい社会学者・鈴木謙介さんによる本書の解説です。ここで全文読めます。特に、初期のインターネット推進者の背景にある「カリフォルニアン・イデオロギー」について詳しく解説してくれています。

キーワード: メッシュ、リバタリアン、ソーシャル、カリフォルニアン・イデオロギー、忘れられる権利

巻末注

本文の典拠や補足情報を、本文と細かく対応付けながら挙げています。「参考文献」とは異なり、断片的なネット情報のリンクなども多く含まれています。書籍版で30ページにも及ぶ(しかも本文よりフォントが小さい)大量の情報が記載されており、本書を資料としても有用なものにしています。

参考文献

「巻末注」とは異なり、書籍や雑誌記事としてまとめられた代表的な文献だけを挙げています。